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Interview – JIN KATAGIRI

TALKING ABOUT "MAGNIFY LIFE" - アーティスト・片桐仁、アートの世界とその造形美に魅せらせて。

お笑いコンビ「ラーメンズ」の片桐仁は、お笑い以外にも俳優、造形作家としてマルチな活躍を続けている。多忙な生活の合間を縫って、長年かけて作り続けた彼の粘土作品の数々は、全国ツアー真っ最中の不条理アート粘土作品展「ギリ展」で見ることができる。ウイットに富んだシュールな作品の数々を生み出すまでの喜びや葛藤、アートの世界に魅了されたきっかけについて聞いた。

作品を通じて<いつもと世界が違って見える>瞬間を体感してほしい。

「僕の作品はどれも、誰もが見たことのある日常に存在するものをベースとしています」。iPhoneケースやペットボトルカバーなどの身近に存在するものに粘土を足し、彩色するのが基本的な彼の創作スタイル。「日常的に使っているアイテムが、魚や動物、得体の知れない『なんだこれ!』と思うものに変身しているので、日頃アートに馴染みのない方や子どもにも理解してもらえているような気がします」。彼が作る作品は繊細で、ディテールにも心を砕いており、それゆえにリアルさと異世界感が共存する。魚類からインスパイアを得たiPhoneケース「タイフォン」、「カレイフォン」はポケットには入りきらないが首から下げることが可能。このちょっとした非効率さが面白い。一転して、チェキフォルダー「チョキ」は遊び心に加えて実用性の面でも緻密に計算されている。「僕の作品には、実用品として使用する楽しさもあるので、アートをアイテムとして使えるんです。作品を通じて、普段の世界をちょっと特別に感じてくれたらなと思いますね」。幼い頃から美術に興味を持ち、学生時代からは専門的な勉学と並行して制作も精力的に行い、常にアートと近い距離で生きてきた彼は、今もまだアートの魅力にとりつかれている。「魅力的な作品に出会うと、その作品が持つ世界に引き込まれていくんです。違う世界を感じた時、作品の価値を感じます。僕は理解できる人にだけ理解してもらうのではなく、多くの人にこの感覚を味わって欲しいと願います。だから、老若男女が訪れる百貨店やショッピングモールなどでも積極的に個展を開催しています」。

芸術家になりたいという夢から、アートの世界、そしてお笑いへ。

芸能活動を続ける傍ら、粘土を使ったアーティストとしてのイメージも定着している彼だが、意外にもアートの世界に興味を抱いたきっかけは絵画だった。「学生の時からずっと美術に興味がありました。美術科がある高校を志望していましたが、実家が公文式だったので、親の要望もあり普通科に進学しました。ですが、十代の頃はずっとアートに触れていました。小学校の頃からアトリエ教室に通い、中学生時分では油絵を習い、高校では美術部に入部、そして多摩美術大学へ進学しました。ゴッホが好きだったので油絵に進みたかったんですが、叶わず版画科に進みました。学ぶにつれ、本当は何がやりたいんだと自問する日々が続くようになりました」。その時、同じ版画科の同級生だった小林賢太郎に誘われて「ラーメンズ」を結成、お笑いをすることになったんです。「お笑いは好きでしたが、まさか自分がお笑いの世界に入るなんて想像もしていませんでした。でも、大学で何か変わったことをしたいという気持ちもありました。90年代前半はお笑いブームがあり、ダウンタウンさんはじめ、かっこいいコンビが多かったので憧れを抱いていました。そんなとき相方がお笑いサークルを作り、僕たちは文化祭でネタを披露したり、プロ志望者のみが参加できる定例ライブに参加したりしていったんです」。大学卒業後は就職ではなく、笑いを極めるべくお笑いの道へと進み、それがきっかけで活動の幅も広がっていった。

常にアートへの探究心を持ち、造形作品の面白さに魅せられる。

あらゆる方面で活躍している彼だが、ここまでの道程は全てが順風満帆ではなかったと話す。「作品を作っていても、周りに認めてもらえず、お笑いでも、大学でウケていた僕らのネタが、一歩外に出れば全く笑いが取れませんでした。試行錯誤を繰り返し、うまくいかないことに悔しさを感じたことも沢山ありました」と思い通りにいかなかった時期を振り返る。「でも、お笑いもアートも諦めずに続けました。そのうち、だんだんとTV出演の機会を得るようになり、漫画雑誌『ヤングマガジンアッパーズ』ではアートの連載を持ちました」。そしてこの連載がきっかけで、本格的な造形作品制作を始めたという。「できることなら60歳くらいまでずっと続けたいですね。作品は常に時間性が内包されるので、制作期間の意思や出来事が詰まっていると思います。どの作品をとっても僕の軌跡を辿れる作品になっているので、これからもまだまだ続けていきたいんです」、と長期的な創作への意欲を見せる。

役によって使い分ける、メガネ選びの心くばり。

「メガネは見た目だけでなく、実際に手に取った時の感覚や掛け心地が一番重要です。実際にかけてみると想像していたものとはだいぶ違ったりしますよね。アートと同様に、実際に目で見て肌で触れないとわからないものが持つパワーに魅せられるので、そういうメガネに出合ったときに購入します」と、メガネ選びにもこだわりを見せる。常日頃からメガネを掛けているという彼は、役作り以外ではコンタクトレンズを装着することもないという。<見る>ための単なる道具としてではなく、印象を和らげる雰囲気作りにもメガネを活用しており、メガネは様々な意味で自身の重要なアイテムのようだ。

「メガネは15個くらい持っていますね。買ったものもあればもらいものもあります。仕事で使用できるかどうかが購入の決め手になります。仕事でも自前のメガネを使っているので、衣装に合わせてスタイリストの方に手持ちのメガネから選んでもらっています。なので、IT社長をイメージしたデザインやオタク風、アーティスト風など、色々なシーンに使えるメガネを購入しています」。興味のある物事に対してはとことん追及していく彼は、「ある工場でメガネをオーダーしたこともあります。大きな工場で全行程をおこなう珍しい場所でした。全部で百何十行程ある内部を見せてもらうことができ、とても貴重な体験でしたね」と楽しそうに話す。

アーティスト・片桐仁の「妄想メガネ」

ー 様々な表現分野で活躍するクリエイターが、こんなメガネがあったら面白いなと思うメガネを自由な発想で提案する「妄想メガネ」のコーナー。日本のクリエイティブシーンを牽引するフロントランナーが、奇想天外なメガネを妄想してくれました。

彼が作る作品の中には、メガネにまつわるものもある。1つは、ヴェネチアカーニバルの仮面をゴシック調にしたような、ダークな色調のメガネ(写真左)。「大学の頃、構内に落ちていたメガネを拾ってずっと眠らせておいたんです。汚れていたので、これは“粘土を盛れ”という啓示だなと。20代の頃に『俺シリーズ』を作っていて、これはそのうちの1つ「俺眼鏡」。とても自意識が強いものを作っていましたね。とにかく訳のわからないものを作ろうとしていたのが、20代でした」。そして次に取り出したのが、リアルな珊瑚礁やクマノミで装飾された夏らしいフレームのサングラス(写真右)。「この作品の土台となるメガネは、以前実際に使っていたそれなのですが、ある日朝起きたら真っ二つに割れていたんです。“これは粘土を盛らないと”と思い作品にしました。タイトルは『サンゴラス』です。30代の頃は、人に見てもらうことを意識して作っていますね。20代の頃とはまた異なり、みんなが掛けられるように加減しています」と、作品を通じて自己分析をする。「作品を見た友人からよく『一体何をやっているんだ?』と聞かれますが、創作の過程が、あれこれ妄想することがどうしようもなく楽しいんですよ。少しでも興味を持ってくれた人には試着してほしい、そんな想いも詰まった僕の『妄想メガネ』です」。奇抜で面白おかしく個性を表現するメガネがあってもいい。アートと実用性、そしてファッションとしても主張のある全く新しいメガネの在り方を提示した、片桐仁らしい「妄想メガネ」だ。

  • カレイPhone ©大坪尚人/講談社

  • 鯛Phone ©大坪尚人/講談社

  • 鯛Phone(上)カレイPhone(下) ©大坪尚人/講談社

  • チョキ ©大坪尚人/講談社

片桐仁/お笑い芸人、俳優、アーティスト。多摩美術大学絵画科版画卒業。在学中に小林賢太郎とともにラーメンズを結成。舞台、TV、ラジオなど、幅広いメディアに出演している。アーティストとして、粘土を使用した造形創作も多数発表しており、現在、不条理アート粘土作品展「ギリ展」の全国ツアーを開催中 。すでに5会場の累計動員数が2万人以上に達しており、次回は11/17(金)〜 12/3(日)の期間、千葉県・イオンモール幕張新都心にて開催予定。主な出演作に、映画『アイアムアヒーロー』、『TOO YOUNG TO DIE! 若くして死ぬ』、ドラマ『99.9 -刑事専門弁護士』、『ヒガンバナ〜警視庁捜査七課〜』、『大貧乏』などがある。YouTuber・高梨仁役として出演する映画『泥棒役者』の公開が11月に控えている。

写真=高木博史
取材・文=土井彩
編集=大澤佑介、宮城フランシス伸(RCKT/Rocket Company*)

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