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共感を捨てた芸術家・小袋成彬の現在とこれから

TALKING ABOUT "MAGNIFY LIFE" - 小袋成彬インタビュー
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小袋成彬。音楽レーベルTokyo Recordings代表。所属アーティストのプロデュース、マネジメント、音源制作だけでなく、外部アーティストの制作サポート、個人名義でも宇多田ヒカルの「ともだち」に参加するなど、マルチな活動が注目を集める。アーティストとして、クリエイターとして、経営者として、20代前半にして花開いた才能の源やメンタリティを探るべく、我々は取材に臨んだわけだが、小袋にとって、極端に言えばそれらはすべて“過去のもの”になっていた。その意外な言葉と芸術家としてのこれからとは。

平成生まれが開く新たな音楽の扉。N.O.R.K.を結成するまで

小袋成彬が音楽家としての活動を本格的にスタートさせたのは2013年。大学在学中に結成したユニットN.O.R.K.に発する。さまざまな音楽的背景を持つチルなサウンドのアンビエンスに、小袋のソウルフルな歌声。2010年以降のインディーR&Bやポスト・ダブステップといった、世界のブラックミュージックやクラブミュージックの進化と共鳴するサウンドが、早耳リスナーたちの間で話題になった。では、小袋はN.O.R.K.を結成する以前、どんな音楽を聴いていたのか。「中学時代はオアシスやアイアン・メイデン、スキマスイッチとか、今浮かんだのはそんな感じです。あとはCDショップの1位から10位を片っ端から聴くとか。ヒップホップやR&Bに特化していたわけではないですね。ただのミーハーです」と話す。一言でいえば“雑食” 。しかし、ここに小袋らしさがある。例えば、熱心なロックリスナーほど、ヘヴィーメタルのレジェンドであるアイアン・メイデンと、インディーロックのスターであるオアシス、出自の異なる両者を同時に好むことは少ない。「サブカルチャーという概念がよくわからない。サブカルがメインカルチャーを押し付けられたことによって出てくるものだとすれば、僕らの世代は、そのサブカルすら押し付けられていたのかも。だから言い換えると何でも聴く。振り返ればそういうことですかね」。なるほど、確かにジャンルごとのマナーに偏るよりも、あらゆる音楽を自然に受け入れられる環境があって生まれる、ミクスチャー感覚が新たな音楽の扉を開いていく。それが平成生まれの特徴なのかもしれない。

N.O.R.K.はなぜ2年足らずで解散したのか。

しかし、N.O.R.K.はわずか2年足らずで活動を止める。そこで、N.O.R.K.を“早過ぎた”とするのはあまりに安易だが、ceroの『Obscure Ride』、Suchmosのヒットやyahyelの登場など、結果的に彼らよりあとに出てきた、ブラックミュージックの要素を強く感じさせつつ、独自のアウトプットで話題をさらった作品/アーティストをあえて引き合いに出し、後悔はないのか聞いてみた。「 “もうちょっと続けていれば……”みたいに言ってもらえるのは、評価としてはありがたいんですけど、あまり売れたいとか認知されたいとか、思ってなかったんです。ただ先が見えなくなった。そのときの判断ですね」。

「経営学と音楽を結び付けたい」。Tokyo Recordingsの設立。

そして小袋は2014年に音楽レーベルTokyo Recordingsを設立する。自社アーティストのマネジメント、音源制作、流通の確保から、外部アーティストの制作サポートなどもこなす、D.I.Yな活動が注目を集める。「大学では経営学を専攻していたんですけど、僕のなかで、そこと音楽が全然結び付いてなくて。でも、せっかくだから学んだことを活かしたいと思って、レーベルを始めたんです。最初は右も左もわからなかったんですけど、考えたこともなかった人生って楽しいし、名乗っちゃえば流通の人も制作の人も集まってくれるだろうって」と立ち上げた理由を話す。ならば、実際に経営学と音楽はどう結び付いたのか。「いろいろあるんですけど、ほんと些細なことですよ。例えば、音楽業界って、ギャラを貰えるのは請求書を出してから2カ月先とかじゃないですか。制作期間も含めると半年くらいお金が入ってこないこともあるわけですよ。じゃあ少し安くなるかもしれないけど先払いにするとか。課題があってそれと逆のことをする。学術的と言うよりは、実務レベルでの発想ですけど。それでわかったのは、結局誠実であればこの業界、うまくいくっていう精神論みたいな(笑)」と答えてくれた。

「売るということを諦めた」。レーベルでの活動を通じて小袋が感じたこと。

しかし、Tokyo Recordingsは一時レーベル活動を休止、現在はレーベル運営よりも楽曲提供や作編曲を主軸に活動している。経営者とクリエイター/アーティストとしての顔を両立することが難しくなったのだろうか。「確かに、全然違いますからね。でも両立できなくなったというより、両立することを止めました。実際レコードが売れないと会社は回らない。でも“売れる”って何だろうっていう悩みがあって。それは果たして自分が求める芸術なのか。考えた末、結局僕は売ることを諦めました。頭の中からお金に対する頓着やしがらみを消した。今は明細も見ないですから。世間的には経営者ですけど、マインドは完全に芸術家です」と自らの変化について話し、「共感を生む音楽が売れるという通説があるじゃないですか。でも、共感してるって言われても、ほんとうに自分の意図することと相手の感じたことは100パーセント合致してるのか。そんなの誰にもわからない。だったら最初にアンケートを取ってパーセンテージの高いことをすればいいわけで。そんな証明できないものについて議論する必要なんてないし、ましてや命題にするなんて」と続ける。もの作りは、作家のバックグラウンドにもよるが、己の感覚を追求すればするほど、ビジネスとしては難しくなる場合がある。小袋はその狭間で戦っている人物というイメージが強かったため、その言葉は意外だった。「そこにはずいぶん悩まされましたし、今でも、芸術性と時代性をどう擦り合わせるか必死に考えてる(Tokyo Recordingsの)メンバーはいますよ。それも素晴らしいことだと思います。でも自分は興味がなくなった」。とはいえ、生活するにはお金がかかる。「クライアントワークは自分の芸術性とは別ですから。“課題解決”なんで。まあ、そこも困っている人を助けることが楽しいっていう“思い”なんですけど。それでもお金がない時期もありましたけど、全然苦痛じゃなかったですね」。

これからのクリエイションについて

「大きなレーベルを作って世の中に一石を投じるよりも、自分が変わった方が早いと思いました。そこにいる鳥がどうして鳴いたのか考える方がよっぽど豊か」。現在はほとんどの時間を自らの制作活動にあてているという小袋。それらが日の目を見ることはあるのか聞いてみると、「そこは一番の悩みかもしれない。自分の今のマインドだと、完成したら終わりなんで。そこには絵もあるし文もあるんですけど、言葉ってコミュニケ―ションのツール。すなわち言葉を使うということは社会が前提にある。僕が誰とも関わらなければ使わなくていいもので。だからせっかくの作品を社会にどう投げるか。それはやらなきゃいけないとも思うんです」と話す。そう聞いたからには、実際に作品に触れてみたい。いつになるかはわからないが、ある意味周囲と断絶し、完全に自己と向き合ったことによって生まれる純度には、我々が今までに感じたことがない何かがあるかもしれない。

小袋とメガネ。渋谷という街

普段から用途やファッションによってメガネを使い分けているという小袋。最近はグラスコードにはまり、10本ほど所有しているという。そんな小袋に“いつもと世界が違って見える”というJINSのコンセプトのもと、メガネを売るだけでなく、WEBや店内のスペースを使って、さまざまなカルチャーを発信する渋谷店の試みに対する印象を聞いてみた。「渋谷ってカオスですよね。小奇麗な店が並んでる隣のビルでAVの撮影をしているかもしれない。相容れないカルチャーがお互い干渉することなくグシャグシャになって同居している。不思議な街ですよ。だから、現場では眼鏡を売りつつ、現代アートや音楽のイベントをやったり、こういうオウンドメディアを作ったり、玉石混合で発信している感じって、渋谷がもっとも成立しやすいんじゃないかと思います」と話してくれた。

アーティスト・小袋成彬の「妄想メガネ」

ー 様々な表現分野で活躍するクリエイターが、こんなメガネがあったら面白いなと思うメガネを自由な発想で提案する「妄想メガネ」のコーナー。日本のクリエイティブシーンを牽引するフロントランナーが、奇想天外なメガネを妄想してくれました。

「メガネを買うときは、細かいディテールを気にします。今まで見たことのないフレームがいいと思って描きました。絵のように、フレームがひとつながりではなく、窓の防水パッチのようにレンズにくっついているメガネがあったら面白いです。」

小袋成彬/Tokyo Recordings代表。作詞/作曲家、プロデューサー、シンガー。大学在学時の2013年にN.O.R.K.を結成。海外のソウル/R&Bやクラブシーンともリンクしたサウンドが話題を呼ぶ。ユニット解散後の2014年にTokyo Recordingsを設立。所属アーティストのマネジメント、プロデュース、音源制作などすべてを自社でこなすだけに留まらず、若手を中心に多くの外部アーティストの作品やCM音楽の制作などにも関わる、幅広い活動が注目を浴びる。自身の制作に没頭する日々を送っている。

写真=タカコノエル
取材・文=岩見泰志
編集=大澤佑介、宮城フランシス伸(RCKT/Rocket Company*)

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