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相反する2つの世界。その境界線が歪む時

二コラ・ビュフ インタビュー
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幼いころから日本のアニメや特撮番組に親しみ、ヨーロッパの古典美術と、日本やアメリカのサブカルチャーを融合させた、遊び心のある作品で知られる二コラ・ビュフ。今回は『JINS 渋谷店』の一角に、モンスターと人間のための、2つの“メガネ屋さん”をオープンさせた。

ゲートの先に広がる不思議の世界

− 今回の展示のテーマはどのように決めたのでしょうか。

メガネにまつわるプロジェクトにしたのは、この場所だから。モンスターを登場させたのは、会期中にハロウィンがあるから、という単純な理由です。このシンプルなアイデアを基に、メガネから連想する「ビジョン」に関連するさまざまな要素、たとえば「見えるもの」「見えないもの」「反射するもの」「イリュージョン」などを含めたストーリーを作っていきました。

− ストーリーの主役は、モンスターと人間の子供。それぞれメガネを作るために、父親と一緒にメガネ屋さんを訪れるんですね。

展示スペースを2つに分け、左にモンスター、右に人間の世界のメガネ屋さんを設えました。ほぼ左右対称に配置し、見えない鏡が2つの世界を区切っているイメージです。本来、2つの世界は交わることがないのですが、鏡の一部にゆがみが生じ、小さな2人はお互いの存在に気づく。そこから、不思議な体験が始まります。

− お客さんも、その不思議な世界を、一緒に体験するわけですね。

通常、展覧会というと、窓越しに作品を鑑賞するイメージですが、僕は中に入って楽しんでもらいたいと考えています。だから、展示室の入口に2つのゲートを設けました。モンスターと人間、それぞれのメガネ屋さんへの入口というわけです。こうした仕掛けは、ビデオゲームの影響です。

− ロールプレイングゲームのキャラクターになった気分で楽しめそうです。

展示スペース全体を、舞台セットのように設えました。お店の設定なので、メガネのいくつかは、実際にお客さんが手に取れるようにしています。クラシカルで、ちょっと不思議な雰囲気を出したかったので、装飾はパリのパッサージュや、イギリスのヴィクトリア様式の建物を参考にしました。

目をだます演出で、“当たり前”の意味を問う

− 以前、パリでオペラの舞台美術を担当された経験がありますよね。その時と同じ手法を用いているのでしょうか。

その時は、舞台上に奥行きを出すために、だまし絵の手法を用いました。舞台を正面から見ると、人の目は奥行きをあまり認識しないので、そうしたトリックが必要になるんです。背景の描き方と照明を工夫することで、実際以上に奥行きがあるように思わせることができる。つまり、“目をだます”ことができるわけです。ただ、今回の展示では、お客さんに舞台セットの中に入ってもらうので、そうしたトリックは必要ありません。代わりに、モンスターと人間の世界をつなぐ「歪んだ鏡」を表現するため、“アナモルフォーシス”の技法を使いました。アナモルフォーシスは、歪んだ画像を円筒などに投影することで、正常な形に見えるようにするトリックですが、今回は逆に、鏡に映る歪んだ鏡像を楽しんでもらう趣向です。

− 普段見ている“当たり前”の光景が歪んで、当たり前ではなくなるんですね。

はい、モンスターの子供を3つ目にしたのは、見た目の面白さもありますが、「他人にはおかしく見えても、本人には普通」ということがあることも表現したいと思ったからです。人間の子どもにとっては、目は2つあるのが当たり前。でも、モンスターの子供には、奇妙に見えることでしょう。もちろん、逆もしかりです。そしてもちろん、どちらが優れているわけでもありません。僕自身、フランスから日本に移り住み、日仏の文化の違いを目の当たりにしていることから、最近は“2つの異なる世界”をテーマにすることが多くなりました。

大事なメッセージは間接的に

− お互いを認め、受け入れることが大事だというメッセージが込められているわけですね。子供向けに見えて、じつは奥が深い。色々と考えさせられる展示だと思います。

子供でも理解できるやさしいお話だけど、含蓄がある。元々僕は、そういうストーリーが好きなんです。たとえば、18世紀のフランスの作家、ボルテールの作品のように、童話の体裁をとりながら、その実、政治体制や社会情勢を批判していたり、昔話のような筋立ての中に哲学的な内容が盛り込まれていたり……そういう話を面白いと思うし、影響も受けていると思います。僕には日本人の妻との間に3人の子どもがいて、絵本をよく読んであげるのですが、ロアルド・ダールの『チャーリーとチョコレート工場』や、トミー・アンゲラーの『すてきな三にんぐみ』など、理屈抜きで楽しめるお話の中に、皮肉やユーモアが散りばめられた作品が好きですね。

文化やジャンルの壁を越えて

− 子供向けのお話だからといって、馬鹿にできませんね。

そもそも、子供向き・大人向きといった区別をしたくないんです。子供向けの作品だから、大人は見なくていい、というのはナンセンス。芸術分野においても、アートとサブカルチャーを区別すべきという人がいますが、僕はそうは思いません。洋の東西、時代の新旧を問わず、文化に優劣はないと思いますし、異なる文化を対等に評価する、フラットな視線を持つことが大事だと思います。

− ご自身の中で、ヨーロッパの古典芸術も日本の最新アニメも、対等な存在ですか。

まさに、そのとおりです。たとえばフランスでは、歴史的なもの、伝統的なものを強固に守る傾向がありますが、個人的には、守るだけでは足りないと考えています。昔ながらの技法を守りながらも、そこに新しい意味を加えていかないと、次世代につなげられないと思うんです。僕自身が、芸術と、他のクリエイティブなジャンルをミックスしたプロジェクトが好きだということもありますが、そうすることで、より面白いものを生み出せると信じています。

ニコラ ビュフ/Nicolas Buffe

現代美術家。1978年フランス・パリ生まれ。パリ国立高等美術学校卒業。2007年東京に拠点を移す。2014年東京芸術大学博士課程取得。1980~90年代のフランスで、アニメ、特撮、漫画、ビデオゲームなど、日本のポップカルチャーに親しむ。「狂えるオルランド」「ポリフィルス狂恋夢」などのヨーロッパの古典文学から、「宇宙刑事ギャバン」「ゼルダの伝説」まで、幅広い学識を持ち、アートとサブカルチャーを融合させた、独特の作風を確立。ファッション、オペラのアートディレクション、ショップのディスプレイなど、美術以外での活動も多い。数々のグループ展を経て、2014年、原美術館にて個展「ポリフィーロの夢」を開催。2018年、デザインを手がけたビル「Museum Garage」がマイアミ・デザイン地区でオープンした。
http://nicolasbuffe.com/

撮影 トヤマタクロウ
執筆 礒﨑西施 
編集 大澤佑介(RCKT/Rocket Company*)
撮影協力:まんだらけ渋谷店 http://www.mandarake.co.jp

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