FEATURE

Interview – NORIKO NAKAZATO

TALKING ABOUT "MAGNIFY LIFE" - ファッションデザイナー・中里周子、無限に広がる“エレガンス”な世界へ。

ー 繊細な模様がフレーム部分にあしらわれた個性的なメガネ姿で登場した中里周子。そのメガネのセレクトからもわかるように、彼女は固定概念にとらわれず、人々に驚きと感動を与え続けるファッションデザイナーだ。欧州最大のファッションコンテスト「ITS 2014」では、ジュエリー部門でグランプリを受賞している。丁寧に設計されたディテールのキッチュなジュエリーには、絶妙な抜け感と独特の日本っぽさ、そして中里固有の視点が光る。受賞を機に自身のブランドを立ち上げ、独自の世界観を発信し続けている。

新世界を作り出す彼女が、<いつもと世界が違って見える>瞬間は“美意識”を感じるとき。

「作品を通じて、新しい世界を見せたい。多くの人を違う世界へ誘いたい」。そう話す中里周子は、「美意識」や「エレガンス」にこだわる。「『エレガンス』という概念を何より大切にしています。私の思う『美』は、いわゆる定型的な美ではなく、『胡散臭さ』も含んでいます。デパートの美術商で見つけることのできるセラミックの人形などを見ていると、時間が止まっていて時代遅れに見えます。しかし、彼らの中では確固とした美的感覚があり、時間軸があるんですね。そこにエレガンスを感じます」。心がふるえる瞬間はいつか問えば、「いつも作り手の時間軸を感じたときに心が動かされます。作品を通じ、ふと制作者の美意識が伝わってくる瞬間があるんです。そういう作品に惹かれ、その作品の持つ世界に連れて行かれますね」。作品に刺激され、独自の解釈や美意識とともにアウトプットし、作品が完成していく。「常に生活の中で感覚を刺激されています」と言う彼女は、映画や食べ物、SNS、デパートの美術商と、日々実に幅広い物事から刺激を受けている。「最近ではじゅんさいと海ぶどうに刺激されました。過去に訪ねた場所や思い出からもインスパイアされますね」。常に美を探求し、吸収し、様々な要素をプラスしては削ぎ落としてく。それゆえ、彼女の作品からは重層的で味わい深い印象が見てとれる。

ストリートよりモード。幼少期の環境がいまの彼女を形作った。

彼女の美意識は幼少期から磨かれてきた。ファッション感度の高い父親を持ち、母親もまた独特な美的センスを持っていたという。「父は時計と車、そして服に夢中で、子供の頃から両親と青山などで買い物をしていました。母は食器やヴィンテージが好きで、生活を彩る才能があるんです。流行にとらわれないアイデンティティーを持った人」と幼少期を振り返る。「私は生粋のシティーガールです。ストリートカルチャーではなく、モード寄りの環境にいました」。幼い頃からファッションに触れていた彼女だが、高校卒業後は大学の文学部に進学し、ファッションの世界に進むつもりはなかったのだと話す。そんな彼女を突き動かすきっかけとなったのは、「ここのがっこう」
だ。「漠然とファッションに興味を抱いていたこともあり、アカデミックに学んでみたいという思いから大学院の進学を考えていました。でも、まず洋服をきちんと作ったこともなかったので、作ることを学ぼうという気持ちになり『ここのがっこう』に通い始めました。そこで素直に自分の表現を人々に伝えることを学び、『私は、これがしたかったんだ!』と気付きました。ファッションは、絵や彫刻と異なり人と物との関係であり、ファッションがツールとなってコミュニケーションを生むんです。そこに魅了されましたね」。そしてデザイナーとして活動し始めた彼女の勢いは一気に加速していく。

発想の転換がカギ。エレガンスを追求しつつ新たな世界を発進。

2014年、「ITS 2014」ではジュエリー部門でグランプリを受賞した中里だが、「ジュエリー専門で作っていたわけではなかった」というから驚きだ。「コンペの1ヶ月前に急遽参加が決まり、フルコレクションを作るのは難しかったので、ジュエリーで勝負しました」。おそらく、彼女にとって重要なのは新しい世界を表現することであり、アウトプットする手段は、洋服でもジュエリーでも変わらないのだ。「限られた時間で作品を完成させるため、ジュエリーの本質を考えました。美しいものがジュエリーであり、ジュエリーを発表するということは、技術を駆使し、どれだけ美しく精巧なものが作れるかということ。しかしその手法では、短期間で理想のものを実現することが難しかったので、思い切ってアプローチを変えました。一般的な認識にとらわれずジュエリーの概念を打ち壊す。そのために視点を変える。何事にも抜け道があるんですよね」。物事の捉え方を逆転したり、発想を180度転換させるのは彼女が得意とするところだ。変化球を投げ、視野を広げることで、今までにない新たな世界を生む。「アイデアの段階では無駄な装飾や技術、無意味な美をどれだけ詰められるかが鍵だと思い、作品制作に取り組んでいます。実用性や利便性には富んでいないアイテムかもしれませんが、私は不便さの中にある『美』を生み出し続けたいですね。これからも新しい『美』の体験を多くの人にしてもらいたいので、見た目だけではなくもっと感覚の奥に刺さる作品を発信していきたいです」

コンプレックスやストレスだったメガネだが、今ではファッションの一部。

小学生のときからメガネをかけていた中里はメガネに対するコンプレックスやメガネにまつわる思い出、なによりファッションとして楽しむツールであることを熱く語る。「メガネを楽しめない時期もありました。小学生のときって、メガネをかけている子のあだ名は『メガネ』で、その子の特徴をいうときも『メガネの子』となりがちですよね。そこに疑問を感じていました。あと、私はとても目が悪いので、メガネのレンズが分厚く、今でもストレスを感じるときがあります。でも、母が私にメガネはおしゃれの一部だと教えてくれました。理解するのに少し時間はかかりましたが、メガネを選び、かけることを楽しめるようになりました。今ではメガネをたくさん持っています。両親との思い出といえば、小学生のときに買ってもらったメガネで、レンズはキャッツアイでした。とてもかわいいんですけど、当時は恥ずかしいという思いもありました。高校生のときに母が選んでくれたメガネはグリーンの細身のフレームで、流行りではないデザインだったのですが、最近になってその良さに改めて気づき、今でもよく使っています」

メガネには無限の可能性が秘められている。

最近では美しいメガネに出会えば刺激され、新しいアイデアが浮かべば、メガネを試作しているという中里。「先日、ヴィンテージショップで見せてもらった縁なしメガネに感動しました。レンズの厚みとサイドのツヤが生かされていてとても素敵なデザインだったんです。レンズの厚さにコンプレックスを抱いていた感覚が逆転し、美意識を感じましたね」と楽しそうに話す。「サンバイザーにサングラスが付いている斬新なデザインのものもすごく印象に残っています。日々、人が予想しているものを超えていきたいと思っていて、いろいろなリミットを取っ払いながらデザインを考えているので、とてもインパクトを感じました」と斬新なメガネに唸りつつ、「メガネからは余裕さも感じます。生活の一部でもあり、自分を表現する手段でもありますからね。本当に様々なスタイルや装飾を施せる」とメガネの可能性を話す。

メガネに対する好奇心と探究心をコレクションにも落とし込もうとしているようで、「最近レンズが微かにグラデーションになっているメガネを作ってみました。一見しただけではわからない程度のグラデーションなのですが、それをつけることにより、いい意味でちょっと神経質そうに見えたりするんです。かけてみると残念ながら私にはうまくフィットしなかったのですが、そうやってアイデアを膨らませ、アイテムに落とし込むことも考えています。コレクションにメガネを取り入れたりもするので、商品として成立するメガネをデザインしていきたいです。今、ネクストメガネを作るためにいろいろと思索中です」

ファッションデザイナー・中里周子の「妄想メガネ」

様々な表現分野で活躍するクリエイターが、こんなメガネがあったら面白いなと思うメガネを自由な発想で提案する「妄想メガネ」のコーナー。日本のクリエイティブシーンを牽引するフロントランナーが、奇想天外なメガネを妄想してくれました。

ただメガネの絵を描くというだけでは面白くないので、「誰のためのメガネをデザインするか」というところから考えることにしました。そこで、メガネをかける必要があるのはメデューサだと思いつきました。しかも、人間社会に迷い込んだメデューサ。なぜ必要かと言えば、目が合う人や動物を石にしてしまうから、人間社会に順応するためには目を隠せるメガネが必要なんです。レンズの内側にはオアシスが映し出されていて、人間関係の辛い気持ちを払拭してくれます。アンテナも付いているので、他者と通信もできます。これはメデューサのためのエクスクルーシブなメガネです。

  • 写真=Hidemasa Miyake

  • 写真=Kenta-Kobayashi

  • 写真=Kenta-Kobayashi

  • 写真=Monika Mogi

  • 写真=Shusaku-Yoshikawa

  • 写真=Shusaku-Yoshikawa

中里周子/2011年立教大学文学部文芸思想専修総代卒業。同年、「ここのがっこう」にてファションデザインを受講し、2012年東京藝術大学大学院美術学部芸術学科美術教育専攻に入学。2014年に卒業し現在は同学博士課程在籍中。2014年、若手デザイナーの登竜門とされる欧州ITS(インターナショナル・タレント・サポート)にて、日本人初のジュエリー部門グランプリとなるスワロフスキーアワードを受賞。2015年、平山郁夫文化芸術賞を受賞。現在はファッションブランド「NORIKONAKAZATO」、クリエイティブスタジオ「NEWPARADISE」
を立ち上げ、幅広く活動している。
http://norikoniko.tumblr.com/

写真=タカコノエル
取材・文=土井彩
編集=大澤佑介、宮城フランシス伸(RCKT/Rocket Company*)

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